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知の交差点思わず聞き入るCN対談第1回

気候変動問題を解決するために、今、化学ができること

三菱ガス化学㈱常務取締役
伊佐早 禎則

NPO法人 気象キャスターネットワーク理事長
井田 寛子さん

CN対談 第1回(写真)

様々な分野の著名人をお招きし、多様な視点からCNを語る対談コーナー。
今回のゲストは、NPO法人 気象キャスターネットワーク理事長を務め、
気象変動に関する講演や小学校での出前授業をこなす傍ら、
大学院での研究にも励む気象予報士の井田寛子さん。
そして、ホスト役はMGCの研究部門を統括する伊佐早禎則常務。
気候変動や気象予測の話題から、環境問題を巡ってのコミュニケーションの
在り方まで、多彩なテーマで話を弾ませたお二人の対談をお楽しみください。

【2024 年 5 月 29 日、MGC 本社応接にて実施】

「人を守ることがメディアの使命」との想いから気象予報士に

——お二人とも筑波大学のご出身で、井田さんは自然学類化学科、伊佐早常務は環境科学研究科を卒業/修了されていますが、その学科を志望された動機などをお聞かせいただけますか?

井田 私は子供の頃から生き物が好きで、どうしてこういう形をしているのかとか、何を食べて生きているのかとか、そういう謎について考えるのが楽しかったので、本当は生物系に行きたかったんです。でも、高校時代にすごく教え上手な化学の先生に出会って、大きな影響を受けました。その先生は、難しい分子や原子の話を本当にわかりやすく教えてくれて、それで化学という学問に一気に興味が湧きました。

伊佐早 私も生物が好きで、先生の影響を受けたというところも井田さんと同じです。私の場合は、高校で大好きな生物の先生に出会って、宿題もほったらかして放課後に先生の研究室で一緒に生物の研究を手伝っていました(笑)。その先生は東大の生物学のドクターだったんですが、「生命活動は化学反応の集大成なんだよ」と教えてくれて、そこから化学の方に関心が向いていきました。
 私は大学院時代は環境科学でしたが、大学では農薬化学を専攻しましたので、その流れで三菱ガス化学に入社しました。筑波大の農学系から化学メーカーに行く人はあまりいなくて、どちらかと言えば酒類メーカーに行く人が多かった。私は入社したら農薬や低分子化学の研究に従事することになるのかと思っていたら、高分子化学の研究を命じられ、初めは何が面白いのかまったくわかりませんでしたが、そのうちに高分子も生物の生態も同じ化学反応の現れなんだと理解し、そこから仕事が面白くなりましたね。

井田 私はメディア志望で、テレビ局に入る前に製薬会社に勤めていたこともありますが、製薬系に行く人は少なかったですね。むしろ、テレビ局に入ってから、先輩アナウンサーや気象予報士など、筑波大出身の人に会う機会が増えました。

伊佐早 井田さんはどうしてメディアを志望されたんですか?

井田 化学のことをわかりやすく世の中に伝えたいという想いがずっとあって、科学番組を作りたかったんです。それで製薬会社に1年勤めた後、NHKの静岡放送局に入ったんですが、静岡は台風や豪雨がとても多い土地柄で、たびたび災害報道を目の当たりにするうちに、自分が好きな自然が人間の脅威にもなることを強く感じました。人の命や財産を守るのがメディアの使命ですし、メディアの世界に来たのなら、災害報道に関わらなければだめだと思い、気象予報士の勉強を始めたのが今の私の出発点です。