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知の交差点思わず聞き入るCN対談第1回

予測精度を上げて中長期スパンで地球や社会の行く末を考える

——井田さんは、気象キャスターになられていろいろご活躍されていますが、2014年に制作された「2050年の天気予報」という番組にも出演されていますね?

井田 ええ、国連の要請に基づいてNHKと国立環境研究所が協力して制作した番組で、最新のデータを使ってシミュレートした結果に基づいて、2050年の天気を予測しています。その時にいろいろご指導いただいた国立環境研究所の江守先生とご縁ができて、2021年から2年間、仕事と育児の傍ら、東大大学院総合文化研究科に入り、東大に客員教授として招かれた江守先生の下で学びました。
「2050年の天気予報」では、私がキャスター役で「東京で40.8℃を記録しました」とアナウンスして、その暑さに驚くという筋立てになっているのですが、実際に青梅市ではすでに40.8℃を記録していますし、東京都心でも40℃に迫る勢いです。気候の変化のスピードがどんどん速くなっていますので、最新のデータを使ってシミュレートしたら2050年にはもっと大変なことになっているでしょうね。

CN対談 第1回(写真)

井田寛子氏
筑波大学卒業後、製薬会社を経てNHK、TBS等メディアを中心に活動。 2006年、気象予報士登録。 WWFジャパン顧問、NPO法人 気象キャスターネットワーク理事長を務め、2023年に東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻修了。現在、筑波大学大学院で博士課程理工情報生命学術院生命地球科学研究群を専攻中。セント・フォース所属。

伊佐早 私の子供の頃は、新聞の天気図に等圧線などを書き込んで遊んでいましたが、今はスーパーコンピュータなども使われるようになって気象予測の精度も格段に上がっていますね。それによって将来、どのような問題が起きるかという警鐘も鳴らせるでしょうし、井田さんをはじめとする気象キャスターのご活躍によって気候変動や防災意識への関心が高まり、気象予報士の資格を取る方も増えている。大学院ではどんな勉強をなさったんですか?

井田 東大の大学院では、コミュニケーションや社会学の観点から、これまでメディアが気候変動問題をどのように世の中に伝えてきたのかといったことを学びました。昨秋、その修士課程を修了しましたが、今年から筑波大大学院の理工情報生命学術院生命地球科学研究群に入り、懐かしいキャンパスで季節予報について学んでいます。
 季節予報というのは、1か月から半年、1年、2年先の気象状況を対象とした中期的な予報で、今おっしゃられたように近年気象予測の精度が非常に高くなり、1年以上前にエルニーニョ現象やラニーニャ現象などの発生をかなり正確に予報できるようになってきました。数十年先や100年先の予報を提供しても、皆さんなかなか自分事とは感じられないかもしれませんが、1年先の予報なら農業や漁業にも生かせるのではないでしょうか? そのような社会に役立つ予報について筑波で研究し、論文化できればいいなと思っています。

伊佐早 産業界においても、これまでは比較的短いスパンで計画を立てて動くことも多かったのですが、情報の流通スピードがどんどん高速化するとともに、市場やニーズの変化も激しくなっています。ですので、目先の動向にとらわれるのではなく、予測の精度をさらに上げて、環境問題を含め、長期的なスパンで社会に何が起きるのか、その未来社会で自社がどんな存在でありたいかを思い描き、そこから逆算して今何をするべきかを考える必要があります。そうでなければ、社会が本当に必要とするものをタイムリーに提供することはできません。