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知の交差点思わず聞き入るCN対談第1回

炭素は必要不可欠な物質。「脱炭素」ではなく「炭素循環」を実現する

——CNに関し、井田さんが化学メーカーに対して感じていらっしゃることや期待されること、またそれに対して化学メーカーがどう応えていくのかをお聞かせください。

井田 2020年に政府がカーボンニュートラル宣言をしてから、企業さんの姿勢はすごく変わりましたよね。もちろん、変わらざるを得ないということもあるのでしょうけど、以前の化学メーカーは、最先端の化学技術を駆使して有用なものをスピーディに作り出すことが第一優先でしたが、今はCO2を抑えながら、環境負荷が少なく、かつニーズを満たす優れた製品を提供していかなければならない。とても難しいことだと思いますが、それを実行しながら2050年のCN達成を本当に達成できるのか、またどのようにして達成するのかを聞かせていただきたいです。

伊佐早 CO2と気候変動の関係性についてはいろいろ議論もありますが、気候変動によって様々な問題が起きていることは間違いないですし、CO2の増加が地球環境に影響を与える可能性があるなら、それを削減するのは企業の責務です。ただし、CO2とC、つまり炭素を同一視してはいけません。ご存知の通り、人間を含めあらゆる生物の体は炭素でできており、炭素は生命活動に欠かせない重要な物質です。ですので、今流通している「脱炭素」という言葉は、非常に誤解を招きやすい。我々が目指すべきなのは、炭素をなくすことではなく、炭素をCO2として排出させないようにしながら上手に活用する「炭素循環社会」なんです。

CN対談 第1回(写真)

伊佐早禎則氏
筑波大学環境科学研究科修了、1991年MGC入社。総合研究所高分子探索チーム、鹿島工場研究技術部等を経て、2019年機能化学品カンパニー東京研究所長。2020年執行役員、2023年取締役常務執行役員就任。研究技術部門と知的財産部門を統括する。

 当社もCO2を原料に、メタノールやポリカーボネートなどの化学製品を製造する技術の開発を進めていますが、そのような技術が社会実装されれば、今まで無駄に排出されていたCO2を有効利用できます。現在、日本でも地球温暖化対策のためにCO2の排出に対して税が課せられる動きが加速していますが、さらに加速することを伝えたいですね。CO2を無駄なく活用して炭素を社会にうまく循環させながら必要な物資を生み出していく仕組みについて、みんなで考えていく時期が来ていると思います。

井田 炭素を扱う化学メーカーが、最先端の技術を活かして気候変動問題に対処するシステムを作っていくという方向に大きく動き出せば、化学産業に対するイメージはもっと向上するのではないかと思っています。「地球環境に貢献する化学会社」と言われるような存在になったら、子供たちの注目度も高まりますよね。そういう会社で働いてみたいと思う子たちも増えていくかもしれない。そのためには、どんな課題があるのでしょうか?

伊佐早 CNを実現するための道筋はいろいろありますが、そのうちのどれが本筋になるのか、まだ見えていないというのが大きなネックになっています。化学メーカー各社とも、CNに貢献する技術の開発やシステム作りの検討はしていますが、国の政策としてどのような形でCNを推進していくのかは不透明です。民間企業がCNの実現というプロジェクトを進めて行くためには、ものすごく大きな資金を必要とします。その資金をまかなう対価が得られなければ、経営を維持できません。しかし、現状、補助金制度なども整備の途上で、各社それぞれに道筋を追求している段階で足並みを揃えた動きは始まったばかりです。

井田 各社が協力して技術などを共有し、一緒にプロジェクトを立ち上げるといったことはできないのでしょうか?

伊佐早 グリーン社会の実現は、1社単独で取り組むには大きすぎるテーマですので、いずれは業界各社との連携が必要になるでしょう。実際、温室効果ガス削減に向けて、革新的な技術開発や効果的な資源活用において、さまざまな共同した取組みが模索されています。簡単にはいかないと思いますが、政府の指針と国民的な合意も見定めながら、企業間や国境の壁を乗り越えた英知の結集が求められると考えています。